第6回:国際社会に広がる歪み:外国の沖縄認識と国際世論のリスク
前回は沖縄県民、そして日本国内の沖縄認識の歪みについて解説しました。今回は、国連機関以外の「外国」の人々の沖縄認識がどのように歪められ、それが国際世論にどのようなリスクを増幅させるのかを見ていきましょう。
3.4. 外国の沖縄認識の歪み
- 「植民地支配の継続」という誤解の拡散: 国連勧告や特定の運動を背景に、日本が沖縄に対して「植民地支配」を続けているという誤った認識が国際社会に拡散されます。これにより、日本の国際的評価が低下し、国際的な場での日本の発言力が弱まるリスクがあります。
- 「琉球地位未定論」の国際的承認リスク: 「琉球地位未定論」が国際機関や国際世論の場で繰り返し主張されることで、日本の領土保全に対する国際的な疑念が深まり、中国が将来的に沖縄に対して何らかの行動を起こす際の「口実」として利用される可能性が高まります。
- 台湾有事における日本の孤立: 沖縄の基地問題が国際的な人権問題や脱植民地化問題として取り上げられることで、台湾有事の際に日本が国際社会からの支援を得る際に足かせとなり、同盟国との連携が阻害されるリスクがあります。
これらの認知の歪みは、日本の国内世論の分断を深め、国際社会における日本の正当性を揺るがし、ひいては台湾有事における日本の防衛能力と日米同盟の抑止力を著しく低下させるという、日本の安全保障にとって重大なリスクをもたらします。
4. 国連勧告が各分野に与えるナラティブの強化
国連の先住民族勧告は、沖縄の様々な動きやニュースが、中国の分断ナラティブに組み込まれる際の強力な「文脈」として機能します。以下に、現在の沖縄の主要な動きが、この勧告と連携してどのようにナラティブに利用されうるかをまとめます。
| 現在の沖縄の動き/ニュース | 関連する中国の分断ナラティブ | 国連先住民族勧告の存在による認知の変化 |
|---|---|---|
| ヘイトスピーチと沖縄県条例 | 情報統制、言論統制・ナラティブ排除 | 沖縄県差別のない社会づくり条例は、表面上差別の解消を謳いながら、「沖縄県民であることにより差別があってはならない」という条文で「沖縄県民は日本人ではない」という既成事実を作る意図を持つ。条例制定批判を「朝鮮ヘイト」とレッテル貼りすることで、北朝鮮のチュチェ思想信奉者を含む朝鮮系勢力による沖縄工作指摘を封じ込める。国連勧告はこの条例の背後にある「先住民族」ナラティブを強化し、批判的言論を「差別」として排除する「権威への訴え」として悪用される。 |
| 辺野古反対 | 米軍=圧政者論、言論統制・ナラティブ排除 | 米軍基地の存在が、先住民族の土地の不当な占領と自己決定権の侵害として認識され、沖縄県の基地問題ではなく、明治の沖縄県設置以来続いている先住民族の人権の問題へとエスカレーションする。 |
| 首里城再建 | 文化的・民族的分断 | 琉球文化の復興が、日本とは異なる先住民族固有の文化の再興と認識され、独自のアイデンティティが強調される。 |
| 島くとぅば推進運動 | 文化的・民族的分断 | 島くとぅば(沖縄の言葉)の推進が、公民化政策や同化政策により琉球人が母国語を失い、琉球語を話すことができなくなったことへの回復運動と認識され、先住民族の言語権の回復として日本政府の同化政策への抵抗と見なされる。本土との差異を際立たせる。 |
| 自衛隊反対運動 | 中国の脅威の軽視、米軍=圧政者論、言論統制・ナラティブ排除 | 自衛隊の存在が、先住民族の土地の軍事化と認識され、自衛隊は明治以来、沖縄を占領し続け、現在も国連勧告を無視して占領を継続しているという認識が広がる。反対運動が国際的な平和運動や脱軍事化の訴えとして強化される。 |
| 米軍反対運動 | 米軍=圧政者論、言論統制・ナラティブ排除 | 米軍基地の存在が、先住民族の土地の不法占拠と認識され、撤退要求が国際的な人権問題として強調される。 |
| 南部土砂遺骨の辺野古埋め立て反対 | 歴史の歪曲・琉球主権未定論、米軍=圧政者論、言論統制・ナラティブ排除 | 沖縄戦の遺骨が眠る土砂の埋め立て反対が、先住民族の聖地や祖先の尊厳を守る行為と認識され、日本の統治の非人道性や不当性が強調される。直接表現をしていないが、南部土砂は日本軍により大量虐殺された琉球人の遺骨となる。その遺骨を辺野古に埋めるのは証拠隠滅とも理解されてしまう。 |
| 琉球処分 | 歴史の歪曲・琉球主権未定論 | 日本による琉球処分が、先住民族の権利を無視した不当な併合であり、現代の日本の統治の正当性を揺るがすものとして国際的に認識される。 |
| 沖縄戦 | 歴史の歪曲・琉球主権未定論、米軍=圧政者論 | 沖縄戦が、先住民族に対する日本軍や米軍による「大虐殺」の場として認識され、その後の米軍基地の存在が先住民族の土地の継続的な占領と見なされる。 |
| 沖縄県祖国復帰 | 歴史の歪曲・琉球主権未定論、文化的・民族的分断 | 沖縄の日本への復帰が、先住民族の真の自己決定権の行使ではなく、日本による支配の継続、日本による琉球の再占領と認識され、国際社会における「琉球地位未定論」の主張が強化される。 |
| ヘイトスピーチと沖縄県条例 | 情報統制、言論統制・ナラティブ排除 | 現時点ではこの条例の根拠法が国連の先住民族勧告ではなく、ヘイトスピーチ規制法の附帯決議であるため、法的には沖縄差別は先住民族差別とはなっていない。しかし、先住民族勧告の存在を前提に見た場合、この条例は琉球人という先住民族をヘイトスピーチから守るためにつくられた条例と認識される。 |
この表が示すように、国連の先住民族勧告は、沖縄における様々な社会運動や歴史的出来事が、中国の分断ナラティブに組み込まれ、日本の主権や安全保障を揺るがすための強力な「武器」として利用されうることを明確に示唆しています。勧告の存在が、これらの動きに国際的な正当性を与え、その影響力を増幅させる「認知の変化」を引き起こしているのです。


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