第1回:沖縄を日本から分断する【ナラティブ】とはなにか

心理戦
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はじめに

今日の国際社会において、情報戦とナラティブ(物語)の認知領域における戦いは、国家間の軍事バランスを形成する上で極めて重要な要素となっています。日本の南西地域に位置する沖縄は、その戦略的地政学的価値ゆえに、中国による「沖縄分断ナラティブ」という巧妙な情報工作の主要な標的とされています。

「ナラティブ」という言葉は、日常生活ではあまり耳にすることがないかもしれません。しかし、中国が沖縄に対して展開する複雑な情報工作を理解し、それに対抗するためには、この「ナラティブ」という概念を深く理解することが不可欠です。本稿では、ナラティブとは何か、なぜ情報工作においてこれほどまでに重要なのか、そしてなぜ人々はナラティブに浸透されやすく、騙されやすいのかを詳細に解説します。

1. ナラティブとは何か

ナラティブとは、単なる「情報」や「事実」の羅列ではありません。それは、特定の価値観や世界観を広めるために語られる「物語」や「筋書き」のことです。ナラティブは、人々の感情や認識に直接働きかけ、特定の方向に世論を誘導することを目的としています。情報工作、すなわち「認知領域における戦い」では、このナラティブが巧みに利用されます。

1.1.1. 沖縄を分断するナラティブとは

沖縄を分断するナラティブとは、沖縄と日本本土との間に歴史的、文化的、政治的な溝があるという認識を意図的に作り出し、沖縄の日本からの分離や日米同盟からの離反を促す「物語」です。これは、特定の事実を強調したり、歪曲したりすることで、沖縄県民の感情に訴えかけ、世論を誘導しようとします。

具体例:

  • 「琉球は独立国だった」という歴史の強調: 琉球王国が独立国家であった歴史を過度に強調し、日本による琉球処分を不当な「併合」や「植民地化」であったと位置づけることで、沖縄と本土の歴史的断絶を印象付け、分離の正当性を主張します。
  • 「米軍基地は沖縄を抑圧する存在」という主張: 米軍基地の負担のみを一方的に強調し、その安全保障上の役割や経済的側面を無視することで、米軍基地が沖縄県民にとっての「圧政者」であるという認識を浸透させ、反基地感情を煽ります。

これらのナラティブは、沖縄県民の感情や既存の不満に巧みに結びつくことで、社会に浸透しやすくなります。(詳細は別の論文で行います。)

1.2.1. ナラティブ、デマ、プロパガンダの違い

情報戦を理解する上で混同されがちな「ナラティブ」「デマ」「プロパガンダ」は、それぞれ異なる役割と性質を持ちます。

用語 意味 特徴 関係性
ナラティブ (Narrative) 特定の価値観や世界観を広めるための「物語」や「筋書き」。 ・中立的(良い/悪いがある)<br>・包括的<br>・感情に訴えかける プロパガンダの「目的」であり、上位概念。
デマ (Rumor / False Information) 根拠のない情報や、意図的に流される虚偽の情報。 ・虚偽性<br>・拡散性<br>・混乱や信用失墜を目的とする プロパガンダがナラティブを広めるために「利用する手段」の一つ。
プロパガンダ (Propaganda) 特定の思想・主張・行動を、計画的・組織的に広め、人々の意見・態度・行動を操作しようとする活動や情報。 ・目的志向性<br>・組織性・計画性<br>・情報操作(事実の選択、歪曲、省略、デマ利用など) ナラティブを広めるための「組織的な活動」であり、「戦い方」。

これらの用語は密接に関連していますが、役割が異なります。ナラティブは、人々の認識を形成しようとする「物語」や「世界観」そのものです。プロパガンダは、そのナラティブを社会に広め、人々の行動を操作しようとする「組織的・計画的な活動」を指します。そして、デマは、プロパガンダがナラティブを浸透させるために利用する「虚偽の情報」という手段の一つです。つまり、プロパガンダはナラティブを達成するための戦い方であり、デマはその戦いの中で用いられる武器の一つと理解できます。

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