中国の狙いは「沖縄の米軍基地撤廃」か 国連勧告…琉球独立論 先住民族論に隠された思惑
「沖縄の人々のDNAをひもとくと、先住民族ではない。日本人だ」
琉球王家の末裔(まつえい)で第二尚氏第23代当主の尚衛(しょうまもる)氏は昨年5月、那覇市内で開かれた沖縄の祖国復帰53周年を記念する式典でこう語った。むろん、大多数の沖縄県民に先住民族との自己認識はないのだが、「先住民族の権利を奪われた」と主張し「琉球独立」を唱える勢力もごく一部存在する。
問題は、そうした日本の一部NGOの主張に基づき国連の人種差別撤廃委員会などが2008(平成20)年以降、沖縄県民を抑圧された「先住民族」と認めて保護するよう日本政府に勧告を繰り返し出していることだ。そして、この事実が当の沖縄県民にほとんど伝わっていないことである。
自民党沖縄県連幹事長などを務めた座波一(ざははじめ)前県議ら有志3人が今月16、17両日、スイス・ジュネーブで開かれる国連人権理事会に出席し、「先住民族というレッテル貼りは沖縄県民に対する侮辱だ」と訴える。
座波氏は4日、沖縄県庁で会見し「当事者なのに、県民がどのように位置付けられているのか分かっていないのが大きな問題だ」と指摘。国連人権理でスピーチする沖縄出身のジャーナリスト、仲村覚氏は「マスコミが報道しないから、先住民族勧告のことを誰も知らない」と嘆いた。
実際、この会見に出席した記者は数えるほどだった。地元メディアの関心は低く、9日現在、沖縄八重山日報しか報じていない。
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一方、地元紙が連日1面トップで報じた国連人権理のスピーチもあった。玉城デニー知事が2023年9月、沖縄県民を「先住民族」と訴えるNGOの発言枠を使って行った演説だ。
玉城氏は米軍基地が「(沖縄に)集中し、平和が脅かされている」と主張。「日本政府は私たちの貴重な海域を埋め立て新基地建設を強行している」と述べた。このとき大々的に報じた地元メディアが、「私たちは日本人だ」と訴える県民有志のスピーチには関心を示さないのが解せない。
「自己決定権侵害」中国に悪用される恐れ
沖縄県知事が国連人権理で発言したのは玉城氏が初めてではない。2015年に翁長雄志前知事(故人)が米軍普天間飛行場(同県宜野湾市)の名護市辺野古移設反対を訴え、「沖縄の人々は自己決定権や人権をないがしろにされている」と主張した。
翁長氏の存念はさておき、沖縄を代表する公人たる知事が、政府方針に反して米軍基地の配置に国際機関の場で異論を唱え、あまつさえ「先住民族」に認められる独立権をも内包した「民族自決権」(自己決定権)に言及したのだ。沖縄の自己決定権が侵害されているとの論が中国に悪用される恐れには思いが至らなかったのか、と疑問でならない。
琉球王家末裔の尚氏は「国連の誤った勧告や『沖縄は中国のもの』との主張は歴史を無視したものだ」と指摘。琉球は清国に属さず、朝貢は琉球として対等な外交だったとの考えを示す。
これに対し、中国の官製メディアは「琉球は昔から一度も日本の国土となったことはない」(北京日報系のSNSアカウント)などと沖縄県の日本帰属を疑問視する論評を展開。中国の国連次席大使に至っては昨年10月、人権問題を扱う国連総会第3委員会で「沖縄の人々ら先住民族に対する偏見と差別をやめよ」と公然と日本政府を批判した。
中国の狙いは奈辺にありや。「先住民族の権利を利用することで、中国が沖縄から米軍基地を撤廃させようとしている。決定的な証拠はないが、状況証拠としてはそろいすぎている」。仲村氏はこうみる。
反論する姿勢示さぬ玉城デニー知事
21世紀に入り、中国の学術界は、沖縄の日本への帰属が未確定だとする主張をしばしば提起してきた。「中国が沖縄の一部研究者や活動家と『学術交流』を重ね、沖縄の自己決定権が侵害されているというトピックを集約してきた」(名桜大の志田淳二郎・上級准教授)との指摘もある。
国連次席大使の発言は、沖縄は日本ではないというプロパガンダ(政治宣伝)であると同時に、「学術交流」などを重ねてきた中国がついに、「沖縄カード」を切ってきたともいえる。
これに対し、沖縄県内では中国に「対抗」する動きも出ている。糸満市議会や豊見城(とみぐすく)市議会、石垣市議会で、中国に厳重に抗議し、国連勧告の撤回を求める決議と意見書が賛成多数で可決された。ただ、豊見城市議会を例にとれば、議長を除く20人のうち賛成は10人。反対8人、退席2人と賛否はほぼ拮抗(きっこう)していた。
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反対討論では「国際基準に照らせば、琉球にルーツを持つ人は明確に先住民族であると考えられる」(伊敷光寿市議)との声もあった。
本来は県議会で議論すべきイシュー(論点)だが、沖縄のアイデンティティーにかかわるだけに、「ウチナーンチュ」(沖縄出身者)にとってデリケートな問題であることは分かる。
とはいえ、台湾併吞(へいどん)の機会をうかがい、沖縄県の尖閣諸島周辺で領海侵入を繰り返す覇権主義的な隣国の動きは無視できまい。
沖縄の米軍基地や自衛隊基地を厄介な存在と思う国にしてみれば、基地問題などを巡る国と県との対立に乗じ、日本政府と沖縄の離間が進めば、米軍基地の縮小につながるとの思惑もあろう。琉球独立論、先住民族論の先に何があるのか。言わずもがなである。
玉城氏は「中国側の発言は、さまざまな意見の一つであろうと受け止める。特に意見を申し上げることはない」と反論する姿勢を示していないが、何とも心もとない。まさか、首肯しているわけでもあるまいに。国連勧告にしても、中国側の妄言にしても、否というべきは否と、沖縄から発信すべきである。(那覇支局長 大竹直樹)
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