民間沖縄対策本部■【産経新聞正論】平和安全保障研究所理事長・西原正 中国空母の「尖閣」出現に備えよ

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中国海軍は、潜水艦や東風21Dの配備などで第7艦隊が東シナ海に入れないように接近戦阻止戦略を展開しています。

その戦略に更に空母が追加されます。自衛隊はこの接近戦阻止戦略に対抗し、米第7艦隊が自由に東シナ海で行動できるように協力するべきです。

また、米国のシンクタンクは「中国は尖閣で武力行使の恐れがある」と報告しています。(巻末に関連ブログのリンクを掲載しています。)

このような中、日中友好外交や日中経済協力をしても彼らの軍事費に利用されるだけです。

さて、尖閣諸島沖中国漁船衝突事故から1年目の今日、産経新聞の正論に重要な論文が掲載されていましたので、全文を紹介致します。

(仲村覚)

■平和安全保障研究所理事長・西原正 中国空母の「尖閣」出現に備えよ(産経新聞 2011.9.7 02:44 )

この8月10日、中国初の空母ワリャーグが大連港を出港して数日間の試験航行を行った。いよいよ太平洋における「米中空母対峙(たいじ)時代」が始まる。日本の安全にどんな影響を与えるのであろうか。

 ≪ウィンウィン関係甘くないか≫

野田佳彦新首相は「中国との関係をウィンウィン関係としたい」と言うが、海軍力拡張に突き進み尖閣諸島の領有を主張する国との「ウィンウィンの関係」とはどんなものなのだろうか。増強する中国の軍事力を黙認するような関係であってはならないはずだ。

中国は空母を保有するに当たって実に長期の準備をしてきた。建造計画は、1974年に周恩来首相が葉剣英共産党軍事委員会副主席にその必要性を説いたことに始まるという。85年にオーストラリア海軍から退役していた空母メルボルンを購入した。そして冷戦後の91年末に開かれた全海軍工作会議で、21世紀初めに最初の空母を建造するとの決定がなされたという。ワリャーグは98年にウクライナから購入した未完成の旧ソ連製空母で、99年から約3年かけ2002年に今の大連港に移され、本格的な改装作業が始められた。

同空母(中国名は未発表)は訓練用であるが、来年にも就役するとされている。並行して、武漢にワリャーグの実物大の複製空母を配置し、戦闘機の離着艦訓練を行っているとされる。上海市郊外にある長興島の江南造船所には大型ドックが4つあり、そこで複数の空母建造が始まっているという。通常型空母2隻を10年代半ばにも就役させ、20年までに最大6隻の空母を建造する計画のようだ。

中国が米国のような空母戦闘群を配備できる日が近い将来に来ることはなかろう。多くの障害に直面するであろうからだ。戦闘群の編成には、空母建造費や補修費のほか、搭載する戦闘機、ヘリコプター、ミサイルなどの費用、空母を護衛する駆逐艦、巡洋艦、潜水艦、補給艦など随伴艦艇約10隻の建造費もかかる。実戦配備時には燃料費、乗組員2000人余の食糧費、医療費なども加わる。

 ≪戦闘群システム構築の道遠し≫

中国は、空母の配備に必要な中国版GPS「北斗」(地球全域をカバーするネットワーク)を建設しており、その費用もかさむはずである。これだけの費用を賄うには、人民解放軍は当分、毎年2ケタ増の国防費を必要とするであろう。中国経済は果たして、そんな国防費を支えられるだろうか。

さらに、中国は空母戦闘群という複雑な作戦をこなすシステムを構築することができるだろうかという疑問もある。7月に上海市郊外で起きた高速鉄道衝突事故は、中国のシステム管理能力の限界を示した。とかく、中国は、技術やシステムを外国から直接間接に入手して、それを模倣し、寄せ集めて「独自の」技術としてきた。

だが、中国がこれまで積み上げてきた能力は「神舟」(宇宙打ち上げロケット)に見られるように概して優れている。中国経済は当面、成長を続けるとの想定で、我々(われわれ)は対応を考えねばならない。

空母は物理的脅威とともに心理的威圧を与える。ワリャーグが訓練名目で南シナ海に現れても、威圧効果は与えられる。訓練用とはいえ、遊弋(ゆうよく)中に、必要なら実戦に臨むかもしれないと周辺国に思わせることができるからである。

例えば、ワリャーグが駆逐艦や潜水艦などを伴って南シナ海に入り、係争中の島々を奪還する演習をするかもしれない。ワリャーグの甲板から数機の戦闘機やヘリが飛び、係争中の島を周回したり、付近の漁船を脅したりするかもしれない。これらは現在でも起きており、演習と断る必要もない。

≪西太平洋の勢力均衡を変える≫

同様に、ワリャーグ(他の艦船でもよい)が尖閣諸島の領海や周辺に接近し、海上保安庁の巡視艇の警告に従わないかもしれない。本格的な空母戦闘群が配備されなくても、起き得る事態である。

中国は射程1500キロ以上の対艦弾道ミサイルを開発中であり、実戦配備されると、米空母はこのミサイルの射程外にとどまる必要が出てくる。こうして中国の「接近拒否」能力が向上すれば、米第7艦隊の日本防衛任務に大きな支障が出てくる。中国空母出現は西太平洋の勢力均衡図を変える。

野田新政権は、尖閣諸島を含む南西諸島の防衛が「日本の核心的利益」だ、と早期に表明することで中国を外交的に牽制(けんせい)し、同時に海空自衛隊の装備を飛躍的に増強させることで、中国の軍事的動きをも牽制する必要がある。潜水艦の増強、海空の対潜能力の向上、そして、憲法第9条改正を含む日米同盟の強化などが不可欠だ。

尖閣をめぐる緊迫状況はいつ再発しても不思議ではない。中国の訓練用空母の出現は決して侮るべきではない。野田新政権は1年前の今日、尖閣諸島沖で起きた中国漁船衝突事件を教訓に、十分なシナリオを立て、シミュレーションをして対応策を練るべきである。そのうえで、中国が日米同盟の外交・軍事力を軽視できないと知ったとき、日中関係は初めて「ウィンウィン」に近づくのである。

(にしはら まさし)