福岡高裁那覇支部の控訴審判決に関する声明――「正当性」コメントと判決文の食い違い、及び今後の対応について
令和8年9月29日、福岡高裁那覇支部において沖縄タイムス社および阿部岳記者に対する損害賠償請求訴訟の控訴審判決が言い渡されました。
地元紙紙面において「ヘイト認定」「控訴棄却」と大々的に報じられ、被告であるタイムス社や記者が「報道の正当性が裏付けられた」「全面勝訴」と宣伝していますが、実際の判決内容および紙面の記述には看過できない重大な食い違いが存在します。事実関係をここに明確に公表いたします。
1. 「正当性」コメントと、控訴審判決8頁の決定的な食い違い
琉球新報記事において、沖縄タイムス社は「判決は、沖縄タイムス報道の正当性を裏付けるものだ」とコメントしています。 しかし、実際の福岡高裁那覇支部の判決文において、裁判所は本件記事の表現について次のとおり明確に判示しています。
『本件記事において、「暗躍している」という表現はいささか正確性を欠くものの、控訴人が、本件条例の成立阻止のために、同条例の成立を巡り「朝鮮系の人々」が関与していると述べて、これを自身の本件番組で配信し流布させていると摘示する点については、重要な部分において真実であるということができる』(福岡高裁那覇支部判決文8頁13行目〜17行目)
つまり控訴審は、請求を棄却する理由の中で、記事の「暗躍している」という表現自体は正確性を欠くと明記しています。請求棄却は、「暗躍」という語まで司法が適切と認めたことを一切意味しません。
また、琉球新報の紙面には、一審判決が「差別デマ」との表現について「適切といえるかには疑問がある」とした経緯も記載されています。これは令和8年3月13日の那覇地裁判決(23頁)の判示であり、控訴審判決の引用ではありません。一審と控訴審を混同すべきではありませんが、一審が「差別デマ」の適否に疑問を示し、控訴審が「暗躍」を不正確としたという二つの司法判断が残っている以上、「報道の正当性が裏付けられた」と一般化できる根拠には到底なり得ません。 金銭賠償義務が生じなかったことと、当該報道表現が正確で適切だと司法が保証したこととは、完全に別問題です。
2. 「主客の逆転」の是正――訴えられた被告が「賠償を免除された」にすぎない
本訴訟は、原告である仲村が、沖縄タイムス社および阿部岳記者による事実歪曲報道に対し損害賠償を求めた「民事訴訟」です。 判決主文の「控訴棄却」が意味する法的事実は、「訴えられた被告(タイムス側)が民法上の金銭賠償を免除された」という一点に尽きます。 仲村が何らかの刑事罰や行政処分を受けたわけでは一切ありません。訴えられて賠償を免れた側の被告が、あたかも司法が原告を公的に断罪したかのように振る舞うのは、初歩的な法理のすり替えであり、悪質な印象操作です。
3. 沖縄県「差別のない社会づくり条例」とは一切無関係
琉球新報記事の後半において、相手側条例検討委員の白充弁護士自身が「法や条例があるのに、直接的に用いなかった点は物足りなさも残る」と自認している通り、本判決は沖縄県の「差別のない社会づくり条例」に基づく公的判断では一切ありません。 民事裁判の裁判官が被告の賠償責任を判断する過程で述べた判断にとどまり、行政上の条例とは完全に無関係です。 そもそも沖縄県が企てていた「条例に基づく審査会勧告・実名公表処分」は、当フォーラムが手続きの重大な違法性を厳しく追及した結果、県当局自らが審査をストップし、見送り(断念)に追い込まれたのが動かぬ事実です。
4. 高裁判決が抱える「3つの論理破綻」と最高裁への対応について
私たちは、この高裁判決について、司法判断として看過し得ない以下の重大な法律問題・判例法理との矛盾を抱えた判断であると認識しています。
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① 原審自身の自己矛盾(最判昭58.10.20との関係):高裁は自ら、タイムス記事の「暗躍している」という表現について「いささか正確性を欠く」と不正確性を認定しながら、「関与を述べて配信したこと」のみをもって重要部分は真実であると結論づけました。社会的評価を低下させている表現自体の不正確性を認めつつ真実性を肯定した高裁の論理には重大な問題があります。
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② 意見・論評の逸脱審査の欠落(最判平9.9.9との関係):「ヘイトデマ」等の人格攻撃的表現について、高裁は事実摘示の相当性だけで漫然と処理しました。最高裁判例が求める「人身攻撃に及び論評の域を逸脱していないか」という審査工程を欠落させた判断の妥当性には重大な疑義があります。
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③ 思想批判と属性差別の混同(憲法第21条との関係):高裁は、直接的な害意や排除意図がないことを自ら認めながら、チュチェ思想等の特定の政治思想に対する警戒・批判的言論を、客観的基準もなく「属性差別の助長と同視できる」として排斥しました。政治思想批判を属性差別に読み替えて言論を制限する判断は、憲法21条が保障する表現の自由の保護範囲の解釈を誤った判断です。
これら重大な論理の飛躍や判例・憲法解釈上の問題点を含む判断に対してどのように臨むか、最高裁判所への上告および上告受理申立ての具体的な手続きについては、現在、代理人弁護士と厳格に協議・検討を進めております。
5. YouTube非削除と報道の要約評価をめぐる真実
相手方が「差別デマ」と評したYouTube番組は、配信プラットフォーム上で削除も制裁も受けておらず、現在も公開されています。本件で、具体的な被害の発生が立証されたわけではありません。 番組における「みんな朝鮮系です」等の発言があったこと自体は判決も認定していますが、本件の核心的な争点は、その発言を「暗躍」「差別デマ」「ヘイトデマ」にまで拡大し、あたかも条例成立への不当な関与を主唱したかのように要約・断定した報道の評価です。 原告は事前の電話取材の段階から一貫して「特定の地域出身者ではなく、思想やネットワークの趣旨である」と説明し、言葉足らずであった点についても訂正の趣旨を明確に述べており、控訴審判決自体も記事の「暗躍」という表現が正確性を欠いていたことを明記しています。
6. 沖縄県に対する行政訴訟の進行および議会陳情について
報道機関の表現をめぐる民事判決への対応は、弁護士と協議して検討します。
それとは別に、沖縄県が「差別のない社会づくり条例」に基づき意見陳述の機会付与通知を発出し、実名公表手続を進めようとした件については、那覇地方裁判所に公開差止等請求事件(令和8年(行ウ)第10号)が係属しています。
令和8年9月24日付で請求を追加・変更する準備書面を提出し、通知の取消し・無効確認等に加え、国家賠償請求を追加しました。令和8年10月1日の期日に向け、準備書面および証拠説明書を裁判所ならびに県側代理人へ送付済みです。県議会に対する実態調査の陳情も提出済みです。
なお、沖縄タイムス社らに対する名誉毀損訴訟と、県に対する本件行政訴訟は別件です。対象となった番組・発言も同一ではありません。
報道による評価の問題と、行政手続の問題は、それぞれ別の裁判と議会の場で明らかにします。
令和8年9月30日
一般社団法人日本沖縄政策研究フォーラム
理事長 仲村 覚
参照記事:琉球新報(令和8年9月30日)
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