本連載の最終回として、中国の沖縄分断ナラティブに対する防御戦略の全体像と、今後の国家戦略としての「認知防衛」のあり方についてまとめます。
中国の仕掛ける複雑な情報戦に対抗し、沖縄の健全な言論空間と日本の安全保障を守るためには、政府、民間(メディア、教育機関、研究者、市民団体、一般市民)、そして国際社会が連携して取り組む多層的な防御戦略が不可欠です。
- 真実に基づいたカウンターナラティブの発信と浸透: これは、中国の偽情報や歪曲されたナラティブに対し、事実に基づいた正確かつ透明性の高い情報を積極的に発信し、自らの正当なナラティブを構築・浸透させることです。祖国復帰運動の真の原動力、尚衛当主のメッセージ、五代秀堯の琉球秘策、国連先住民族勧告撤回運動といった具体的なカウンターナラティブの実践がこれに含まれます。
- メディアリテラシー教育の強化: 一般市民、特に情報操作の標的となりやすい層(例:若年層)を対象としたメディアリテラシー教育を強化し、情報操作の手法を見抜き、批判的に情報を評価する能力を育成することが不可欠です。地元のメディアや教育機関と連携し、偽情報に対する社会全体のレジリエンス(回復力)を高める取り組みが求められます。
- 言論空間の健全性維持と透明性の確保: 特定の言論や人物に対し、不当に「差別的」「デマ」といったレッテルを貼って社会的な議論から排除しようとする動きに対し、警戒を怠らないことが重要です。多種多様な意見が自由に議論される健全な言論空間を維持し、情報操作の「からくり」を可視化することで、国民が自ら真実を見極める力を養うことができます。政府や関係機関は、基地問題や関連する政策決定プロセスにおいて、より一層の透明性を確保し、県民の懸念に対して真摯な対話を行うことで、外部からの分断ナラティブが入り込む隙を減らす必要があります。
- 国際協力の推進: 外国からのディスインフォメーションキャンペーンに対抗するため、米国をはじめとする同盟国や友好国との情報共有、分析技術の協力、共同でのカウンターナラティブ戦略の策定を推進することが重要です。国際社会における「琉球地位未定論」のような主張に対して、日本の立場を明確に説明し、理解を求める外交努力を強化します。
- 防衛領域としてのナラティブ認識の提言: 防衛省や日本政府においては、沖縄のナラティブ領域を従来の物理的・軍事的な防衛領域と同様に認識し、象徴横断的な防衛計画の立案を提言します。これは、情報戦が国家安全保障の最前線であることを踏まえ、ナラティブの攻防を国家戦略の中核に位置づけることを意味します。
これらの防御方法を複合的に実施することで、中国が仕掛ける分断のからくりを無力化し、沖縄の安定と日本の安全保障を確保することを目指します。
まとめ
本連載は、国連の「先住民族」勧告が、中国による沖縄分断ナラティブにどのように利用され、日本の安全保障に重大なリスクをもたらすかを包括的に分析した。中国は、「三戦」を手段として、歴史の歪曲、米軍=圧政者論、文化的・民族的分断、情報統制といったナラティブを巧みに展開し、沖縄県民の自己認識、県外の日本人の沖縄認識、そして国際社会における沖縄認識を意図的に歪めようとしている。特に、国連勧告の存在は、これらの分断ナラティブに国際的な正当性を与え、日本の領土保全や台湾有事における防衛能力を低下させる危険性をはらんでいる。
この「思想侵略」とも言える脅威に対抗するためには、政府、民間、国際社会が連携した多層的な防御戦略が不可欠である。真実に基づいたカウンターナラティブの発信(祖国復帰運動の原動力、尚衛当主のメッセージ、五代秀堯の琉球秘策など)、メディアリテラシー教育の強化、健全な言論空間の維持、国際協力の推進に加え、沖縄のナラティブ領域を防衛領域として認識し、象徴横断的な防衛計画を立案することが、その主要な柱となる。
筆者の15年にわたる研究と実践は、このナラティブ侵略の実態を明らかにし、日本国民だけでなく、政府までもが「つくられたナラティブ」を無批判に受け入れることの危険性に警鐘を鳴らすものである。本連載が提言する防御策を複合的に実施することで、中国が仕掛ける分断を無力化し、沖縄の安定と日本の安全保障が確保されることを切に願う。


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