第8回：沖縄プロパガンダの特異性：歴史戦から安全保障の最前線へ

これまで、中国が仕掛ける「沖縄分断ナラティブ」の具体的な内容とその浸透のからくりを解説してきました。ここで、この沖縄プロパガンダが、従軍慰安婦プロパガンダや南京大虐殺プロパガンダといった他の歴史問題に関する情報戦と、どのように異なり、なぜ日本の安全保障にとって圧倒的な脅威であるのかを明確に説明します。

歴史問題に関するプロパガンダは、すべて「ナラティブ」を浸透させることを目的としていますが、そのナラティブが設定する「時間軸」「目的」「ターゲット」において重要な違いがあります。

1. 歴史問題プロパガンダと沖縄プロパガンダの比較

項目	歴史問題プロパガンダ（従軍慰安婦、南京大虐殺など）	沖縄プロパガンダの特異性
ナラティブの核心	「日本が過去に重大な人道に対する罪を犯した」「日本は歴史を直視せず、反省していない」という「歴史的加害と不誠実」の物語。	「沖縄は日本に不当に併合された独立した民族の土地であり、現在も植民地支配が続いている」「米軍基地は沖縄を抑圧し、日本の安全を脅かす存在である」という「現在進行形の不当な支配と民族の自己決定権」の物語。
時間軸	主に**過去の歴史的事実（とされるもの）に焦点を当てます。	過去の歴史的解釈（琉球処分、沖縄戦など）を現在の問題（米軍基地、条例、自衛隊配備）に直結させ、未来の行動（独立、基地撤去）を促す「現在から未来志向」です。
目的	日本の歴史的責任を追及し、謝罪や賠償、教科書記述の変更などを要求する。日本の国際的信用を失墜させ、外交的・政治的影響力を低下させる。日本国内の歴史認識を分断**させる。	日米同盟の弱体化と、台湾有事における米軍の介入妨害・遅延。<沖縄の日本からの分離（直接的または自治権拡大による実質的分離）。沖縄の言論空間の分断と操作。<br>国際社会における日本の領土保全の正当性を揺るがす。
ターゲット	国際社会の世論、国連などの国際機関、日本の国内世論（特に歴史認識に関心のある層）。	沖縄県民の自己認識、沖縄県外の日本人の沖縄認識、国連機関、外国政府・世論。
影響	日本の国際的地位や歴史認識に長期的に及びますが、直接的な軍事バランスへの影響は間接的です。	過去の歴史問題が日本の「評判」や「歴史的責任」を問う側面が強いのに対し、沖縄プロパガンダは、そのナラティブを現在の沖縄の政治的・社会的状況に直接適用し、日米同盟の機能麻痺や台湾有事における米軍の介入妨害という、より直接的かつ緊急性の高い地政学的・軍事的な行動を促すことを目指しています。国連勧告の利用は、この目的のための「法的・政治的武器」として機能します。

2. 圧倒的な脅威である理由

従軍慰安婦や南京大虐殺のナラティブが「歴史の審判」を求める傾向が強いのに対し、沖縄のナラティブは「現在の状況変更と将来の軍事バランスへの影響」を直接的に狙っているという点で、その脅威は圧倒的です。

沖縄は台湾に最も近い米軍の拠点であり、ここの機能を無力化または弱体化させることは、中国の台湾侵攻シナリオにおいて極めて重要な戦略的目標となります。沖縄プロパガンダは、単なる歴史認識の争いを超え、日本の防衛能力と日米同盟の抑止力に直接的な穴を開け、戦略的空白を生み出すことを意図しているのです。このため、沖縄プロパガンダは、日本の安全保障の「最前線」を揺るがす、より緊急かつ深刻な国家安全保障上の脅威であると認識すべきです。