JSN■【石平のチャイナウォッチ】海軍病院船派遣申し出の下心=羊の皮を被った狼

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石平先生のメルマガを紹介させていただきます。
「羊の皮を被った狼」「右手で握手、左手に棍棒」
日本は、このような隣国と付き合う外交力なしでは生き残れないことを痛感します。。

(JSN代表 仲村覚)


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2011.04.08 No.121号
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~誰よりも中国を知る男が、日本人のために伝える中国人考~
石平(せきへい)のチャイナウォッチ
http://www.seki-hei.com
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■ 海軍病院船派遣申し出の下心 ■
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前回のメルマガでは、日本の大震災に際しての中国国内の「日本応援コール」の実態をレポートしたが、今回は中国政府の対応に焦点を絞ってその対日姿勢の背後のものを探ってみることとする。

震災の中で、「日本支援」の動きが世界中に広がっている中、中国政府も確かに、日本に対してさまざまな支援を行った。
その中には人命救助隊の派遣や軽油の無償提供など単純な人道主義的立場からの有り難い支援もあったが、こういうものに混ぜて、その意図するところはかなり怪しいと思われるような支援の申し出もあったのである。

それはすなわち3月15日、中国の梁光烈国防相が自ら表明した、中国海軍の病院船を日本に派遣して救援活動に参加したい、との一件である。

<梁光烈国防相>

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病院船と言えとも、このような船は明らかに中国海軍の戦力の一部であり、いわば軍艦に準ずるものである。中国軍がそれを日本に派遣したいと考えた背後には何かの隠された意図があるのか、やはり疑いたくなるものである。

というのも、近年以来、東シナ海から津軽海峡までの日本近海付近を頻繁に出没して日本に大きな脅威を感じさせてきたのは他ならぬこの中国海軍だからである。
そして、中国海軍の進めている「第一列島線と第二列島線以内の海を制覇する戦略」こそが、日本の安全保障と国家存立にとっての最大の実質上の脅威であることは周知の通りだ。

要するに、日本にとっての脅威となっているはずの中国海軍は一体何のために、艦隊の一部となる病院船を日本に遣わしたいと思っているのかが当然疑問となっているが、よく考え見れば、それは別に不思議なことでもない。

つまり、中国海軍は日本にとっての最大の脅威だからこそ、そして中国海軍自身もそのことをよく分かっているからこそ、今回の病院船派遣の申し出があった、と理解できるのであろう。
その際、中国海軍による派遣申し出の目的はすなわち、海軍が自ら日本での大震災への救援活動を参加することによって、日本国民の中国軍にたいする警戒心を和らげ、日本国民に浸透しつつある「脅威としての中国海軍」のイメージ
を少しでも払拭することにあるのではないかと思う。

http://photo.tetew.com/images/newsimg/2011/03/16/200004_20110316_228.jpg

考えてみよう。
もし中国海軍の病院船は実際に震災地域の海辺にやってきて実際の救援活動に参加した場合、日本国内でどんなことが起きるのであろうか。おそらく日本中のマスコミはそれを大きく取り上げて、日本人が中国軍によって救助されるような映像が日本全国に流され、ニュース番組のキャスタやゲストたちが口を揃って中国軍に感謝と敬意を捧げることになるのであろう。そしてそれが日本国民の中国軍に対する印象にどのような変化をもたらしてくるのかが目に見えてくる。

中国政府と中国軍も当然、このような宣伝効果を十分に分かっている上で、まさにこのような宣伝効果を狙って病院船の派遣を申し出た、と考えるべきであろう。そして、「脅威としての中国海軍」のイメージを払拭して日本国民の警戒心を和らげることによって、日本の周辺の海における中国海軍の活動がより展開しやすくなり、中国軍の海洋制覇戦略がより順調に進められるように環境を整備していくことこそが、中国政府と中国軍の隠された意図であり、中国側の戦略的深謀遠慮であろう。

言ってみれば、狼は羊の皮を被って餌食となる相手への騙しにかかってきたというのは、すなわちこの度の病院船派遣申し出の真相ではなかろうかと思う。

日本政府は結局、中国海軍の病院船派遣の受け入れを「断念」して派遣の申し出を断った。中国側の意図を察知しての判断であったどうかはよく分からないが、至極当然の意思決定である。

が、日本側が「病院船の受け入れを断念」と発表した3月26日の当日、中国側はすぐさま「震災支援」とは正反対の行動に出た。
その日の午後4時45分頃、東シナ海の中部海域で、中国国家海洋局所属と見られるヘリが、警戒監視にあたっていた海上自衛隊の護衛艦「いそゆき」に異常接近した。日本政府がこれに抗議したが、中国政府はいつものように開き直って自らの挑発行為を正当化した。
そして数日後の4月1日、今度は同じ中国国家海洋局の小型機が東シナ海の公海上で、警戒監視中の海上自衛隊の護衛艦「いそゆき」に水平距離約90メートル、高度約60メートルまで接近し2周ほど周回した。

日本が未曾有の大震災への対応で精いっぱいとなっているこの次期での度重なる挑発行為は、まさに「火事場の泥棒」と称すべき卑劣なものであるが、下心からの「病院船派遣申し出」が断られた途端、中国政府はすぐさまその本性を現した。狼はさっそく、羊の皮を剥ぎ捨ててその凶暴さをむき出したわけである。

その一件からも、中国という国の不変な体質がよく分かってくるのではないか。

( 石 平 )