沖縄対策本部長■中国を窮地に追いやった日米両政府のミャンマー急接近

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■東アジアサミットは、中国包囲サミットだった

11月19日から開催された東アジアサミットは、実施的に中国包囲網を実現するサミットとなったようです。

そのサミットに先立ち、オバマ大統領はオーストラリアへの海兵隊の駐留を発表し、更に、ミャンマーへの経済制裁を見直し、民主化を支持していく方針を打ち出しました。

そして、クリントン国務長官に来月ミャンマーを訪問するように指示したのです。

慌てた温家宝首相は急遽オバマ大統領との首脳会談を行なっています。

この慌て様からすると、米国の政策転換に関する情報は中国には入っていなかったという事です。つまり、米国側は中国に情報が漏れないように注意しながらオーストラリアやミャンマーと調整を進めていたのだと推測できます。

今後、日本が生き残るためには、今回の米国の政策転換がどのような意味を持ち、日本自身がどのような立場にたっているのか把握することが非常に重要だと思います。

■対ミャンマー政策を転換した米国

まずは、政策転換を報道したニュース2本を掲載します。

<米国務長官 ミャンマー訪問へ>

(NHK 11月18日 23時42分)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20111118/t10014065632000.html

アメリカのオバマ大統領は、ミャンマー政府が政治犯の釈放を進めていることなどを受けて、来月、クリントン国務長官を現地に派遣すると発表し、民主化の進み具合を確かめたうえで、経済制裁を科しているミャンマーへの今後の対応を決めるものとみられます。

アメリカのオバマ大統領は18日、訪問先のインドネシアのバリ島で記者会見し、クリントン国務長官にミャンマーを訪問するよう指示したと発表しました。

ミャンマー政府は最近、民主化運動のリーダー、アウン・サン・スー・チーさんとの会談を繰り返しているほか、政治犯の釈放を続けており、オバマ大統領は、こうした取り組みについて、「民主化に向けた道を歩み続ければ、アメリカとの新たな関係を構築できる」と述べ、評価する姿勢を示しました。

また、オバマ大統領は、スー・チーさんと17日、電話で会談し、ミャンマー政府の最近の取り組みをアメリカ政府として支持していく考えを伝えたことも明らかにしました。

アメリカの国務長官がミャンマーを訪問するのは56年ぶりのことで、クリントン長官は来月1日から2日間、首都ネピドーと最大の都市ヤンゴンを訪問し、政府高官やスー・チーさんとも会談する見通しです。

オバマ政権としては、ミャンマー政府による民主化の進み具合を確かめたうえで、経済制裁の中身の見直しを含めた今後の対応を決めるねらいがあるものとみられます。

<クリントン米国務長官:ミャンマー訪問へ 米の政策転換、「議長国」初の成果>

(毎日新聞 2011年11月19日 東京朝刊)
http://mainichi.jp/select/world/news/20111119ddm007030134000c.html

【ヌサドゥア西尾英之】オバマ米大統領が18日、米国務長官としては半世紀ぶりとなるクリントン長官のミャンマー訪問を発表した。米国を筆頭とする国際社会への復帰を目指して国内改革に取り組んできたテインセイン政権にとって、米国の対ミャンマー政策の一大転換を意味する長官訪問は、17日の東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国就任決定を受けた「最初の成果」といえる。

「ASEAN議長国就任決定といっても一般の市民はぴんとこないが、有名なクリントン氏が訪問するとなれば『国の変化』を実感する人が多いだろう」。ASEAN首脳会議場で、ヤンゴンから派遣されたミャンマー人記者が言った。

アウンサンスーチーさんとの対話や政治囚の一部釈放など、政権の8月以降の「改革」の狙いは、ミャンマー製品輸入禁止や金融取引の禁止など、米国による経済制裁の解除だ。

軍事政権への強硬姿勢で先頭を走っていた米国が姿勢を転換すれば、国際社会が制裁を維持する理由はなくなる。

一方でミャンマーには、中国への過度の依存から脱却するため、対米関係改善を求めている面もある。

政権が9月に中国による水力発電ダムの建設中断を表明した背景には、国内で我が者顔で振る舞う中国への国民の根強い反発があった。

クリントン長官は12月の訪問で、政権に厳しい要求を突きつけるとみられるが、政権が長官訪問を大歓迎するのは確実だ。

野田首相もミャンマー大統領と会談し、米国に歩調を合わすように動いています。事前に米国との調整が水面下で動いていたことが伺えます。

<野田首相、農業などODA再開表明 ミャンマー大統領と会談>

(産経新聞 2011.11.18 21:55)
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/111118/plc11111821560018-n1.htm

【ヌサドゥア(インドネシア・バリ島)=佐々木類】野田佳彦首相は18日、ミャンマーのテイン・セイン大統領と会談した。首相はミャンマーの民主化努力を評価し、農業分野を中心とした政府開発援助(ODA)の再開に向けた協議を始める考えを示すとともに、さらなる民主化努力を要請した。

日本がODA再開に動き出したのは、オバマ米政権が民主化に向けた動きを限定的ながら評価、政策の見直しに着手したためだ。

こうした動きを先取りする形で、「地政学的に重要な位置にある」とする玄葉光一郎外相がミャンマーのワナ・マウン・ルウィン外相と10月下旬に東京で会談した。

9月には日本経済団体連合会(経団連)が官民合同でミャンマーを訪問。南東部のダウェイ港など港湾整備の可能性やベトナム、タイを結ぶ南部・東西経済回廊の整備について、ミャンマー側と意見交換した。

天然ガスなど豊富な資源を持つミャンマーへは、欧米、日本などが経済制裁を続ける中、中国が活発に投資を進めてきた。

昨年6月には温家宝首相がミャンマーを訪問し、中国国営企業による原油、天然ガスのパイプライン建設の着工式に出席。今年5月には中国内陸部からミャンマーを縦断しインド洋に至る鉄道建設でも合意した。

だが、ミャンマー政府は10月、北部イラワジ川で中国国営企業によるダム工事の凍結を発表。同時期にテイン・セイン大統領がインドのシン首相と会談し、軍事や資源協力で一致するなど中国離れの動きをみせている。

■2013年の完成を目指して建設が進んでいる中国ミャンマーパイプライン

上のニュース記事には、昨年6月には温家宝首相がミャンマーを縦断するパイプラインの起工式に出席したとあります。

その頃の記事を確認してみましょう!

<中国がパイプライン建設に着工 ミャンマーで着工式>

(共同通信 2010/06/04 19:19)
http://www.47news.jp/CN/201006/CN2010060401000725.html

【北京共同】中国の国有石油大手、中国石油天然ガス集団は4日、ミャンマーから中国に原油と天然ガスを輸送するパイプラインの建設に正式着工したと発表した。着工式は3日、中国の温家宝首相とミャンマー軍事政権のテイン・セイン首相立ち会いの下、ミャンマーの首都ネピドーで行われた。

急増するエネルギー需要を支えるため、中国が海外で積極的に進めている資源獲得策の一環。パイプラインが完成すれば、中国はマラッカ海峡を通過せずに原油を輸入できるようになる。

しかし、ミャンマー経済をてこ入れし、民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんの自宅軟禁を解いていない軍政を支援することにもなるため、中国への国際的批判も強まりそうだ。

中国側の報道によると、原油パイプラインは年間2200万トン、天然ガスパイプラインは年間120億立方メートルの輸送が可能。

昨年6月のニュースを確認すると、ミャンマーと中国の関係が非常に深かった事がわかります。

次は、今年6月19日のニュースです。

<中国ミャンマー・パイプライン建設加速 中国部分の着工間近>
(新華通信社 2011-06-19 08:56:55)
http://jp.xinhuanet.com/2011-06/19/c_13937599.htm

【新華社北京6月19日】6月7日の中国石油天然気(天然ガス)集団公司(中石油、CNPC)本社からの情報によると、中国ミャンマー天然ガス・パイプラインの中国部分の工事が間もなく始まり、関連の準備作業が急ピッチで進められており、年間のガス輸送量は120億立方㍍に達し、2013年には正式にガス供給が開始される見込みだ。中国ミャンマー・パイプラインは、西のミャンマー・シットウェー港を起点とし、雲南の瑞麗から中国に入り、雲南省、貴州省、広西チワン族自治区の三つの省・自治区を経て、最終的に広西チワン族自治区の貴港に達し、年間輸送ガス量は120億立方㍍だ。昨年6月、海外工事が始まった。(以下省略)

昨年6月に起工式を行い約1年後には中国側の工事が始まっています。

ちょうど同じ頃と思われるCCTVのニュース動画もあります。

(動画リンク切れ)

下にパイプラインの地図を掲載します。

(※このパイプラインの起点は、ミャンマー西岸の「シットウェー」という報道と「チャウッピュー」の両方の報道があります。どちらかひとつの起点港を開発しているのか、それとも起点が二つあるのかは不明です。)

<図:中国とミャンマーが共同建設する石油・ガスのパイプライン>

<図:ミャンマー~中国原油パイプラインならびに雲南省製油所・パイプライン>

■米国によるマラッカ海峡封鎖の無効化を狙っていた中国ミャンマーパイプライン

中国は、南シナ海と東シナ海を核心的利益として西太平洋の海洋覇権を目指していますが、まずは第一列島線の確保を目指して、米軍の接近を阻止しながら台湾を手中に収める事を狙って軍隊の増強を続けています。

しかし、中国は台湾有事の際に米国によりマラッカ海峡が封鎖され中東からの原油が入らなくなる危険性があります。

ただし、このパイプラインが完成すると、中東からタンカーで運んできた原油をマラッカ海峡を通過せずに中国国内に運搬できる事になります。

この新たな原油・天然ガスの陸上輸送ルートにより、戦争の継続が可能になります。

つまり、このパイプラインは中国にとって米国によるマラッカ海峡封鎖を無効化するための戦略なのです。

■中国を窮地に追いやった日米政府のミャンマー接近

中国ミャンマーパイプラインは2013年の完成を目指して着々と進んでいました。

そして、このパイプラインは中国にとって南シナ海、東シナ海有事の際の生命線といえるほど重要なものです。

ですので、ミャンマーは自国の傀儡国家としてコントロール可能な状態でなければ、パイプラインの安全を守ることができなくなります。

ところが、東アジアサミットで、仮想敵国である、米国と日本がミャンマーに急接近してきたのです。

有事の際日本や米国にパイプラインを止められたら全てが無駄になってしまいます。

これは、中国にとってはこれまでの計画がひっくり返されるほどの窮地に追い込まれたのではないかと思います。

日本は自覚していないかも知れないのですが、米国と組んで中国を窮地に追い込み喧嘩を売ったのです。

これからは、日本に喧嘩を得られた中国の反発が予想されますので、日本はよくよく心して中国と向きあわなければならないと思います。

(仲村覚)